涌井曄子さんの曲集『歌筏』の出版コンサート、まことにおめでとうございます。ぼくは涌井曄子さんのご尊父である高城重之先生とはかなり親しくさせていただいた記憶があります。というのは、高城先生はぼくの中学生時代の音楽と書道の先生だったからです。その中学校は横浜県立第二中学校(現・翠嵐高校)で、ぼくは特別先生に可愛がられていたのではと思っていますけれど.....。
そんなある時、人の眠りを盗んでこっそり音楽室へ忍びこみピアノを弾いていた時、高城先生が突然入ってこられたのです。
その以前に講堂でピアノをひいていたところを主任の先生に見つかり,えらく怒られたことがあっただけにぼくは愕然として「先生ごめんなさい。」と謝まって去ろうとしたら、先生が「きみはピアノを習ってるの?なかなか弾けるじゃない」というわけで、以後先生のヴァイオリンのピアノ伴奏をするようになったのです。それから教室のピアノは空いている限り自由に練習が出来るようになったり、素晴らしい先生のヴァイオリンの伴奏もするように恵まれて天にも昇る心地だったのです。それ以後先生の伴奏で2,3回演奏会に出演したこともありました。そんな会の曲目は「ジョスランの子守唄」とか「シューベルトのアヴェマリア」などもあったと記憶していますが。
次に涌井さんのご令兄である高城重躬さんともかなり親しくさせていただいております。わが家のステレオ・ハイファイ装置などもお世話になったり、お宅にも何回かお訪ねしたこともありました。
さて、涌井曄子さんの音楽ですが、『歌筏』を拝見して感じたことは、音楽的感度や情緒や審美感などの次元がとても高いということで、そのハーモニーの流れは必然的で、ある曲には殊更に現代風なデイスコード(不協和音)が見られ、じつに入念に構成されていることなどが、よくわかるのです。惟うにメロデイーよりもハーモニーを重点に思考しているのではないでしょうか。
『歌筏』全曲を通して受けとる印象は明朗・爽快・柔軟・斬新さなのです。殊に『花かんざし』『虹色の妖精』『雪解』『火の花』『波紋』『ひとよ』などに見られるピアノ伴奏部の流れは時に、はっ!とするような新鮮さを感じさせるのです。
涌井曄子さんは、ぼくらの幾つかのグループの会員に所属していることは嬉しい限りです。つまり一人の素晴らしい音楽的素材が加わっていることになるからです。
これら作品が発表会で、実際に耳に出来ることはとても愉しみです。涌井曄子さんの家系はご尊父を始め、ご令兄、ご令嬢たち全員が優れた音楽一家なのです。涌井さんにその血液が作用しているのは勿論のことでしょう。
涌井さんの優れた作品が今後どんどん増えるように、ますますお元気でご精進を心から祈りつつ、お祝いの言葉といたします。 |